途上国ライフ

図工と体育と、ときどき英語。元公立中学校教諭、現途上国の小学校の先生。

【英語】言語を学ぶのは何のため?

今日は、言語(主に英語)について、考えたことを書きます。

 

 

 

 

 

ブータンの公用語は2つで、英語 と ゾンカ語(ブータン固有のことば)です。

 

しかし!

ブータンは九州ほどの面積に70万人が暮らす小さな国であるにもかかわらず、

現地語が20以上あります。

県をまたいだだけで、ブータン人同士でも意味がわからず、お手上げになってしまうこともあるそう。

 

言語学者の先生たちにとって、研究しがいのあるとても魅力的な国だと思います。

 

公用語は 英語 と ゾンカ語 ですが、

私がいたブータンの東部では、 シャショップ という、また違うことばが話されていました。

このシャショップは書き言葉がなく、話し言葉のみ存在しています。

つまり、文字がありませんでした。

ゾンカ語は首都があるブータン西部で、シャショップは主に東部で話されています。

 

 

 

 

ブータンでは、子どもたちが学校に通い始めるのは5歳を超えた年からで、

class PP (Pre-Primary)からのスタートとなります。

PPの次はclass 1, 2...と進級していきます。

日本のように4月スタートではないのでまったく同じではないですが、

class 1 =日本の小学1年生、 class 2 = 日本の小学2年生 と考えていただいていいと思います。

(ちなみに、義務教育ではありませんので、数パーセントの子どもは学校に通っていません。

加えて、テストで基準を満たさない生徒は、進級できません。

ゾンカ語は公用語であるにもかかわらず、東部出身で学校に行けなかった人は、

シャショップしか話せません。)

 

 

 

そして、本題。

 

 

 

学校に通っているブータンの子どもたちは、とても上手に英語を話します。

先生たちは、授業を英語で行っています。

class PP - 2くらいまでのちびっこたちは、英語だけでは難しいですが、

それでも先生が現地語を使ってフォローしながら、英語で授業を進めます。

class 3ともなると、ほぼすべての授業を英語で理解します。

もちろん教科書は英語で書かれています。

日本でいう国語、つまりブータンのゾンカ語だけは、教科書も授業もゾンカ語ですが、

それ以外はすべて英語です。

外国人である私とのコミュニケーションも、もちろん英語。

 

小さいころから英語に触れまくっているので、それが普通で、

英語が話せることも普通です。

学校を出ている大人も、もちろん上手に話します。

そして、発音がとってもきれいで、訛りを感じることがありません。

特に大学まで出ているブータン人は、自分の専門分野以外でも専門用語がすらすら出てきます。

 

 

驚くべきは、ブータン人は、英語・ゾンカ語・シャショップのほかに

まだまだ理解でき、話せる人が多いということです。


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インドのヒンディーと、ネパールのネパリを巧みに操る人の、まあ多いこと!!!

 

もちろんその人の学歴や経験、出身県にもよりますが、

5つの言語を操れる人がたくさんいるのです。

地理的な要因に加え、

ブータン人は、脳みその言語に関する部分が発達しているのだと思います。

日本語も、教えるとすぐに覚えてくれました。

 

 

 

 

 

 

ここで考えたいことは、言語を学ぶ意味。

 

 

 

 

 

ブータンに行く前、とあるアジアの国で働いていたとき、

みんな英語が上手だなあと思っていました。

仲良くなった人に、「どうしてそんなに英語が上手なの?」と聞いたら、

 

「日本は豊かな国でしょ。

 日本語だけでなんでも買えるし、日本語だけで生活できるじゃん。

 ぼくたちは、貧しいから、英語を知らないと仕事ができない。

 つまり英語を知らないと、お金を稼げないし、生きていけないからだよ」

 

と言われたのです。

 

 

 

 

当時の私には、これがかなり衝撃的で。

頭をガーンとたたかれたような気持ちでした。

 

 

 

中学校に勤めていたときは、英語嫌いの生徒に

「なんで英語なんか勉強しなくちゃいけないの!

 俺は外国なんか行かない、ずっと日本にいる、だから英語はいらない」

なんて言われて、彼らの言っていることもわかるなぁ、と、モヤモヤしながらも、

ただ受験があるから英語を勉強しているわけではなく、

「英語ができれば世界が広がる」「可能性が広がる」

というようなことを話していました。

 

 

 

でも。

 

 

 

彼らにとって英語は生きるためのツールだった。

 

 

 

 

 

それまでは、英語は「学ぶ」ものだと思っていました。

「英語を勉強すれば~~ができる」という感じで、

豊かに生きるために学ぶものだと思っていました。

 

 

 

だから、そもそも が違っていたことに大きな衝撃を受けたのです。 

 

 

 

 

 

「ブータンは小さい国だから、隣国と手をつながないと、国を守れないのだ」

と、ブータン人は言います。

 

実際、国営テレビは1局のみ、あとはインドから電波をもらい、

英語とヒンディー語の番組に小さな頃から慣れ親しんでいます。

ものをつくる大きな会社はありません。

電化製品や車はもちろん、日用品や食料など、お店に並んでいるもののほとんどがインドからの輸入。

(農業は、故西岡京治さんのおかげで、ブータンでも自給自足が主です。)

だから、みんな言葉を知っているのです。必要だから。

 

 

ブータン人は、日本人が英語があまり得意ではないことを知っていて、

「だって、私たちと違って英語話せなくても困らないもんね!なんでもあるしね!」

って、キラキラした笑顔で言われます。

ブータン人は、優しく思いやりに溢れた人ばかり。

決して皮肉ではないのです。裏を返せば、

「日本はすごい。自分たちの言葉だけでなんでもできるんだから!」

ってことです。

 

 

大国である中国とインドにはさまれて、それでもなお自分たちの国が倒れずに存続できているのは、

生活面で頼る部分が大きいけれど、それでも

自国の文化や伝統(伝統衣装や仏教観、王室を大切に思う気持ちなど。詳しくは記事をご覧ください)を

大切に大切に守っているからだ、と。

 

そして、ゾンカ語は圧倒的な語彙不足で、たとえば病気の名前など、

何かを説明したいとき、ゾンカ語にその語彙がなければ、英語の語彙を使います。

ゾンカ語は、今、消滅の危機にある言語のひとつ、なのだそうです。

自国の文化を存続させるために、学校でゾンカ語を学んでいます。

 

 

 

 

 

私たちは、こうした国から見れば、物質的にはとても豊かな国に暮らしています。

たしかに、言われてみれば、国内で生活する分には、英語って必要ないですよね。

英語学習にたいして、ぜんぜん、切羽詰まっていない。

病院に行っても困らないし、電化製品も自動車も国内メーカーはちゃんとあるし。

オリンピックがあるから、と、英語表記が増えてきて、積極的に英語を学ぶ人も増えたけれど、

基本は日本語だけで生活できます。

 

 

 

 

英語を学ぶ目的が、理由が、圧倒的に違うんだなと思いました。

 

 

 

 

 

日本で頑張って働いている外国の方々も、

理由はさまざまあると思いますが、

きっと生きるために日本語を身につけているのでしょう。

 

 

まとまりがない文になってしまいました。(^^;)

・・・・だから何だ、という話なのですが、

かつて英語を教えることを仕事にしていた私には、これは衝撃的な気づきでした。

 

 

みんなが平等に教育を受けられる日本に生まれて、

何の疑いもなくその権利を享受してきましたが、

英語に限らず、学び、勉強することの意義や目的を

深く考えさせられました。

この経験は、これからも英語を学び、教えるモチベーションのひとつとして

私の中に生き続けると思います。

 

 

 

最後までお読みいただきありがとうございました。